先日、WIRED主催のサイバスロン報告会イベントに行ってきました。
イベントの元となった記事はこちら↓
[wired]そこに障害者と健常者の境目はなかった:2016年サイバスロン現地レポート
http://wired.jp/2016/10/11/2016-cybathlon-report/
今年10月に、スイスで「サイバスロン」という大会が開催されました。
もともと、ロボット工学を応用した補装具の普及を目的に創設された障害者スポーツ大会なんですが、最初にこのイベントを知ったとき、色々思ったのです。
サイバスロンは、
・未来のエンターテイメントの発芽で
・人と技術の融合において重要な役割を果たす、
・自分と違う他者への寛容さ・多様性に寄与する。
・しかも大きな産業・市場を創出する。
・技術の社会実装プロセスに使える。
そういうものなのではないかと。
細かいルールや詳細は前述のWired記事を読んでください。
スイス・チューリッヒ郊外の、7,000人収容可能なアイスホッケー試合会場は、
チケットが売り切れ、当日もチケットを求める人が会場の外にいたそうです。
サイバスロンは、障害者が競技者となる点で、パラリンピックと近い印象を持ちますが、
実際には、競技を行う「パイロット」、そのパイロットが乗る(装着する)マシンを作成し、チューンナップする「技術者たち」の融合したチームで行うので、個人的にはF1などのモータースポーツに近いと思います。
サイバスロン全部説明したり、イベントのやりとり書くと長くなるんで
個人的に「おっ!」と思ったことを羅列
画像引用:Wired
筋肉の電位を測定し装着者の意思を読み取る義手「メルティンMMI」
|
○20年間足を動かしたことがないパイロットが、ペダルを漕ぐ
実際に、日本から参加したメルティンMMIチームのFESバイクレースパイロットは、足を切断してから20年間「自分の足を動かす」という感覚がありません。このパイロットは、電気刺激型のバイク(見た目は、車いすっぽい)に乗って、実際にペダルを動かして走っている。
足を動かすのが不自由な人が補助を受けて競技するのがパラリンピックなら、
サイバスロンの場合、「足を動かす概念自体が消えたはず」の人が競技をしている。
○人と技術が融合
技術にスポットの当たった競技大会、といえば「ロボットコンテスト」とかがある。サイバスロンの場合、「パイロットが駆使する技術・マシン」が、
本当にその製品を使うターゲットである。という点が特色。
人、にスポットが当たったパラリンピックとも違う、
技術、にスポットが当たったロボットコンテストとも違う、
人と技術、が対決するAIとの囲碁勝負とも違う、
人と技術がチームを組み、本来できなかったはずのことをやる
(F1であれば時速300kmで走る、サイバスロンなら足が無い人がペダルを漕いで走る)
それを通じて「こんな技術がもう実用的にあるんだ」ということを、見ている人が知る。
大会に勝つために、自分たちの技術をアピールするために、
研究成果を「競技のマシン」として披露し、より研ぎ澄ませる。
○なにが「障害」で、だれが「障害者」なのか
サイバスロンのパイロットが障害者ですが、そもそも障害者ってなんだろう?僕は、視力が1.5以上ある、
妻は、視力が悪く眼鏡かコンタクトがなければ外出も難しい。
しかし妻は別に視覚障害者ではない。
それは「眼鏡とコンタクトレンズ」の技術によって、僕と同じ生活を送っているから。
でも僕は、目の中にものを入れるなんて怖い!!と思うので、カラコンとか絶対装着できない。
コンタクトレンズが不要であると同時に、そもそも装着できない
じゃあ、コンタクトレンズの技術が向上して、
「装着したら視力4.0になるのが当たり前」の世界になったら?
妻が便利だから、と当然のようにそれを装着し、
僕は相変わらず「眼の中にコンタクトとか怖い絶対無理!!」となったら?
たしかイベント中にメルティンMMIの粕谷さんが仰ってたのですが
”2本の腕があるから健常者、という定義はおかしい。ぼくは、はんだ付けの作業をする時に、腕が2本なのを毎回不自由だと感じている。正直、腕が3本あって駆使できるほうが色々と便利だ。2本の腕と脚を自由に動かす人を健常者と呼ぶのは、 3本の腕を駆使するやつが現れたら、そっちがスタンダードになる。”現時点でそれが最高レベルだから。
※サイバスロンのオフィシャルトレーラー動画
○健常者と障害者のコミュニケーション
パイロットは障害者、技術クルーは健常者が中心。この両者が、大会での勝利を目指して試行錯誤し、意見交換し、訓練・練習を続ける。
これは、「選手とコーチ」や「F1ドライバーとメカニックチーム」の関係と近い。
強化車いすの競技に出場した和歌山大学の中嶋さんは、
と言ってた。「本来なら、妥協せずがっぷり四つの関係性を作りたかった、
しかし実際には、どこまで踏み込んでいいのか、
どこまでぶつかり合っていいのか、難しかった」
パイロットと過ごした日数も少ないだろうし、サイバスロン自体がまだ始まったばかり。
けど、自分たちのマシンを最もうまく乗りこなし、長い年月をかけて信頼関係を築いた場合、
この「難しさ」はどうなるのか。
○未来のスポーツエンターテイメント
視力4.0のコンタクトレンズ、しかも瞬時にピントが合わせられる、となったらそれを装着し、オリンピックに出場するのは、どういう扱いになるんだろう。
競技によっては、大きなアドバンテージ(有利・不利を作り出す要因)になる。
いくらでも最先端のコンタクトを装着して構わなくなるのか、
ルール自体の改正が必要に迫られるのか。
そして、「視力4.0ってあんなレベルで見極めるのかよ!すげえ!」という
驚きと感動を視聴者に届けるのか。
一流アスリートが身に着けてる一流の製品って大ヒットするじゃないですか。シューズとか。
世界中にいる、足の不自由な人、足の先が欠損した人がサイバスロンを見て、
「なぜあんなに自由にペダルを駆使して移動できるんだ・・・!」となったら。
○隠さない、むしろ「自慢する」という風潮
目が悪い人が眼鏡かけて、そのメガネが超かっこよかったら、自慢はしなくても「見てほしいなあ」くらい思うのは自然だし、
そもそも「メガネが似合う顔」ってある。
「美しい義足」で有名な、東大生産技術研究所の山中俊治教授は
”義足を装着した人は、まずそれを隠したがる。しかし、その義足が予想以上に自由自在に高性能で、外観もかっこいいと、次第に見せびらかしたくなる”と言っている。
画像引用:東京大学生産技術研究所 山中俊治研究室 |
当たり前だ、自分が使ってるものが高性能で、自分しか持ってなかったら、自慢したくなるもの。
○トラブルが起きたら
オリンピックやF1、いや大体のスポーツが、仮に選手が練習中・試合中にケガをしたとして、
かわいそう、痛そう、ひどい、とは思うだろうけど、同時に
「まあ、ぎりぎりの勝負の世界では、多少のケガは仕方ない」と思うでしょ?
(※著しくひどい症状や、明らかにルールや運営の不備によるものは除く)
じゃあ、サイバスロンの大会で、いま同じことが起きたら?
パイロットが、マシントラブルで例えば腕に大やけどを負いました。
F1のドライバーが、マシントラブルで起きた火災に巻き込まれ、
腕に大やけどを負いましたってニュースとまったく同じように、
自分は、周囲は、受け止められるか?
○お金がかかる、企業スポンサーの参入
スイスと日本の間で、莫大な機器を輸送せねばならず、輸送費だけで往復200万円くらい掛かったらしい。
サイバスロンは、現状の目的が「福祉関連技術の発展」のため、という方向性なので、
この領域における大企業が大会をスポンサードするとか、
賞金を出すとか、もしくはチーム単位で支援するとか
新しい文化の創造、という文脈で某飲料メーカーが支援するとか
そういう動きがあっても、別におかしくない。
というか、すでに動いてるんだろうし、
海外じゃクラウドファンディングで資金募ったりスポーツメーカーに売り込んでるチームもある。
○エンターテイメントとして社会に実装させてしまう
技術の研究と実用化、っていまやっている仕事が関わり深いんでどうしてもアンテナが反応しちゃうのだけど、
「普通にエンタメとして成立しちゃうもの」がやっぱり強い。
最近だとVR。
テレビでバンバンやって、ラジオでいろんな芸人が話のネタにして。
社会的な意義はある!でも市場価値はよくわからない!
みたいなの、大事なんだけど、10年スパンでみてジリ貧だったら意味ないと思う。
結局ボランティアでしか成立しません、って
関わってる人たちが率先して実証しちゃうの、
本当にいいことなのかな?
「いや、普通にエンタメとして超面白いから」
「面白いから、当然関連ビジネスとかいっぱい立ち上がって市場作っちゃうから」
「すげー注目されてる大会だから、一流のチームはめっちゃ賞金もらうし」
「パイロットも技術クルーも超かっこいい、あー将来サイバスロンの技術者になって優勝したいなー!」って子供が出てきたら。
こうあるべきなんじゃ?何かあるかなあ?と思って、最近発見したのがこのサイバスロンでした。
ほんとは不寛容さの許容、みたいな文脈としての
サイバスロンが持つ可能性の話も書く気だったけど、
疲れたので別エントリーにする。
退役軍人も、肌の色や腕の本数が違う人も、
あまり周囲に見る機会が少ない日本における可能性の話。
---
サイバスロン公式サイト
http://www.cybathlon.ethz.ch/
日本からの参加チーム
メルティンMMI
http://meltin.jp/home/ja/home/
0 件のコメント:
コメントを投稿