2016/10/03

映画「怒り」を観た後に、原作を読んだ。(ネタばれ無し)

画像はeiga.com/から引用

映画を見て、あとから原作読んだんですけど。
この作品に関してはその順番(映画→原作)がおススメかも。


理由は後述。


作品内では、3つの物語が平行する。東京・千葉・沖縄
(※警察の動きも入れれば4つ、なんだけど原作ほどフォーカスが当たってないので3つ。)


1.千葉:漁港で働き男手ひとつで娘を育てる

(渡辺謙、宮崎あおい、松山ケンイチ)

キーワード「負い目」
とにかく負い目を感じている。

狭い田舎で、すぐに娘に関するうわさや悪評が出回る。
それと戦い娘を守ろうとしても仕方がないと我慢する父親

自分が人と違うことを薄々わかっていて、自分を大事にしないし、
自分を大事にしてくれる人はおそらくいない、という考えに至っている娘

本当は、自分の娘が幸せな人生を歩めると思っていない父親
自分みたいな女に好意を寄せる男は、まともなやつなわけがないと思っている娘

何かの恐怖や警戒心を常にまとわなければ生きていけない、
というオーラを全身から放っている若い男


2.東京:ひょんなことで共同生活をはじめるゲイカップル

(妻夫木聡、綾野剛)

キーワード「諦念」
みんな諦めている。

病気の母親は、もう長くは生きれない。
好きな男と一生過ごしても、社会通念上そいつと一緒の墓には入れないと思っている。

たくさん楽しい予定を入れ、おいしいものを食べ、踊り狂っても、何も楽しくないと実はわかっている。

妻夫木の冒頭のセリフで
えーもう少し居ましょうよ、俺なんてもう「楽しいフリしてるのが楽しい」ってレベルまで来ちゃってますから
ってのと、中盤の
予定いっぱい入れて、毎日バタバタしてるのが楽しいと思ってたんだけど」
があるんだけど、このセリフで全部表してるよなーと思った。
東京で楽しいフリして毎日を送ってるやつ100万人くらい殺す威力ある。


3.沖縄:無人島で暮らす男と、知り合った若い2人

(広瀬すず、森山未來、佐久本宝)

キーワード「閉塞感」

作品見終わってまず思ったこと
なんで映画のポスターとかに佐久本宝くん入ってねえんだよ!入れるべきだろ!!

これ。

辰也役の佐久本宝くん凄い。無名でほぼ演技経験無い新人らしい。ほんと?
この映画、辰也君いなかったら成立しないじゃん。と思った。

とにかく景色がきれい。素晴らしいロケーション。
一度でも南の島・離島に訪れたことがあるなら
「ああーいいなあー」と自分の記憶にある美しい風景と重ねられる。


けど、実際はどこまでも抜けるような青空の下に、
無限に続く青い海のように、
絶望的で閉塞的な世界が広がっていること、が描かれる。


なんの成果も生まない社会活動に精を出す父親を見る息子
不平不満がある、好きじゃない。けど、それを母親に伝えない娘
とある事件が起きる、それを警察に届けたとしても「何も変わらない」とわかっている人たち


何も変わらない、
なにも意味がない、
どうせみんな興味ない。
せめて景色が綺麗でないと、息苦しくて窒息しそうな空間。


◆原作と映画の違い


原作・・・犯人が誰なのかを意図的にわかりやすく描き、それを踏まえた人間の心境を描く。
読者が先に真実を知る「神視点」

映画・・・犯人捜しのミステリーがメインではないが、後半まで誰が犯人かはわからない。
見ている側も「同じタイミング」で真実を知る。

この違いが、原作が好きな人は映画の評価があまり高くない理由だなと思う。

でも、ここに映画版最大のポイントがある。

映画は、登場人物がそれぞれ怪演といえる演技を披露し、1時間半くらい経つと
もう見ている側は誰かに(下手すると全員に)感情移入してしまう。
原作を読んでいない人は

「せめて○○だけは殺人犯ではなかった、となってほしい・・・」

「そうじゃなきゃ、あいつがかわいそうだよ・・あいつのためにも人違いであってよ・・」

となる。俺もなった。

終盤、原作にも登場する「ある男」が取調室で刑事相手に話をはじめる。
怪しい、一見してヤバいとわかるオーラをまとっている。

「もしかしたら3人とも犯人ではなくて、こいつが真犯人なのでは?」と思えてくる。

思えてくる、というかそうあってくれという目で「その男」を見てしまう。

原作を知らず、どっぷり感情移入した客にとって希望の光。

ただ怪しいだけで、謎なだけで、3人とも殺人なんてしていなかったのかもしれない。

そう、せめてこんな世界なんだから、目の前の人が殺人犯なんてやめてくれよ。

と思ったところからの、

真犯人が本性を現していく展開が素晴らしい。
これは原作を先に読んでいては味わえない感覚。


◆映画観た人、原作読もうぜ


映画を先に見て原作を読むと
「えっ、なんでそんな露骨に誰が犯人なのかわからせちゃうの?」
という点に不満はある。

俺も読みながら「えっ、はやっ!」って口走った。
でも、「文字によって表現し、読者側の脳内に想像させる」という手法の醍醐味がある。

沖縄で起きる事件の描写、
漁港で働く親父の心境、
充実した生活に見えて巨大な空洞を心の中に持つ男。

役者が巧かろうが、脚本や演出を駆使しようが
映像で見せたら固定化しちゃうもの、映像で見せにくいもの。
原作の最大の魅力。

あと、映画版では省略せざるを得なかった
・なぜ、父親は娘を大事に思いつつどこか負い目を感じでいるのか
・東京で暮らす男はなぜ、空洞を心に抱えているのか
・沖縄に住む女の子は、(たとえ事件が起きてなかったとしても)母親をどこか冷めてみているのか
を描いてるし、

事件を追う刑事の心境、
東京で暮らす男の「理解あるからこそ空しさが増す」家族、
漁港で働く父親のいい相談相手となるいとこの過去
など、

結局メインキャスト8人以外も、全員もれなく
「信じたいけど信じられない、そんな自分が好きになれない」
を背負っていて、

映画見た後に
本当はあの2時間半に入らなかっただけでこういうことなのか。
と楽しめる。

映画を低評価する原作ファン最大のポイントはここだろうな。こんなに省略されたんじゃそりゃ微妙だわ。


でも、「犯人が誰なのかが明確になり、そいつが本性を現し、迎える結末」の描写は
映画版のほうが、個人的には好きです。


最後に。
映画もしくは原作を読んだ人にしかわからない、
”壁に書きなぐられたような”文章を書く。

映画みて、原作と違うって怒り狂ってるやつがいた、
ネットでレビュー書いて評論家気取り、ウケる。
自分の世界観が侵されるのが嫌ならわざわざ観んな