UAやカヒミ・カリィとの競演でも著名な菊地成孔さんは
著書をいくつか出されている、文筆家としての顔も持っていて
僕は彼の文章が、彼が創る音楽やサックスの演奏と同じか、それ以上に好きです。
菊地さんの著書2作目、「歌舞伎町のミッドナイト・フットボール」内に書かれた
【アンセルメとジャリの、ノエル・ブリュ】という短いエッセイに
象のコンソメやネコとネズミのロースト、なんていうおかしなメニューを出す
フランス・サントレノ通り沿いにあるフレンチレストランの話が載っています。
このレストランは、いつもこんなおかしいメニューを出してるわけではありません。
文中から少しだけ抜粋します。
歌舞伎町のミッドナイト・フットボール―世界の9年間と、新宿コマ劇場裏の6日間 |
これはこの年(1870年)のクリスマス時のみ、の特別なメニューなんです。
歴史に詳しい方なら、はたと膝を打つ事でしょう。この年パリは戦時中だったんです。
普仏戦争といって、後にドイツになるプロイセンと戦争をしており、
この年の9月19日から、翌年の1月28日の降伏まで、
132日間プロイセン軍にパリは包囲されて、兵糧攻めにされていたんでした。
摂氏マイナス13℃の中、食べ物も石炭もプロイセン軍に完全に断たれた35万人のパリ市民は、
149大隊に別れてパリ市街の防衛にあたりましたが、餓死者と凍死者はこの冬だけで5000人に達したそうです。
クリスマスの夜は、その98日目の夜ですね。
(ちょっと中略)
フランスで、クリスマス・ディナーのご馳走はレヴェィヨンといって、聖なる務めなんです。
もう絶対やらなくちゃいけない。
裏路地からネコとネズミを捕まえてローストしてでも、食べなくちゃいけない事なんでしょう。
食べ終わって店から出ると、餓死者と凍死者の死体を焼いて暖を取るとしても。
翌年の2月になる前に、とうとう降伏してしまうとしても。
凄いですね、クリスマスって。
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〜小学館『歌舞伎町のミッドナイト・フットボール』菊地成孔著 より抜粋〜
僕はクリスマスに対する拘りもあまりなく、フレンチの味がわかる食通でもないですが
この文章が好きで、クリスマスというとこの文章を思い出します。
そして今日、クリスマス・イヴの夜に渋谷のシーバードというジャズバーで
僕が活動しているバンドcontextlessが、ライブを演ります。
宮崎勝央さんのバックを務めさせて頂くのですが
正直、僕はジャズが主戦場ではありません。
生粋のジャズ好きから見たら、はっきりいって本格派とはほど遠いと思います。
最初、うちのtp金山さんから「クリスマスイブにライブ」の話が来た時
直感的に『ああこれはやるべきだ、ていうかやりたい』と思いました。
アマチュアミュージシャンだろうが、主戦場ではないジャズだろうが
街中がクリスマスで浮かれている時に、その空気を感じながら演奏するっていうのは
何か違う意味を持つと思うんですよね。たった数曲でも。苦手なジャンルでも。
いつもの食材が使えずにネコとネズミのローストを供さなきゃいけなくても。
つうことで。
渋谷と表参道のあいだ。駅からも歩いてすぐだし(青山学院大学の近く)、
凍死するほどじゃないだろうけど外も相当寒いだろうし
戦争ってほどじゃないけど、イブの夜だっつって色々わあわあ言ってる状態ですし
もしふらっと立ち寄って頂けたらこれ幸い。
そういえば、東京都内にはジャズのライブハウスって結構あるはずなのに意外と知られてないですよね。。。。
最後に場所をもう一度。
東京都渋谷区渋谷2-3-4 青光ビルB1 渋谷シーバード、です。