2015/05/17

科研費とか企業の研究開発費について、気になったことを聞いたらITの歴史とかの話になって面白かった

僕はいわゆるアカデミア(学術・研究の世界)出身ではない。

ただ、いまは仕事柄企業や国がどれだけ投資をしたかとか、研究をしているだとか、どんな成果が出たかみたいなことについて自然と情報が入ってくるので

自然とアカデミアとは何なのか、アカデミアが果たす役割とは、刷新されるとしたらどういう姿であるべきか、みたいなことを考えるようになった。

以前一緒に働いてた児玉さんは、親父さんも含めてバリッバリのアカデミア出身でたまにご飯を食べると色々おもしろい話が聞けるので感謝している。
なんとなく、彼も僕のことを面白がってくれているフシがある。


で、こないだ見かけたニュースで「ふーんそうなのかー」と思いつつ浮かんだ素朴な疑問を
児玉さんにfacebookチャットで聞いてみたら

「なんかこれ、俺だけが聞いてるの勿体無い話だなー」と感じたので
本人に許可取ってブログにアップしました。


<以下、チャットのやりとり>

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-- お疲れ様っすー。ちょっと児玉さんがどう思ってるか聞いてみたいなって話があるんすけど
日立が研究開発費を年5,000億円にするっていうニュースがあったじゃないですか。

日立、研究費に年5000億円 人工知能やロボット向け 16~18年度3割増
日本経済新聞 電子版
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ07HZ5_X00C15A5MM8000/

はいはい、ありましたね。

-- このニュースに限らないし、今に始まったことじゃないけど、日本で研究開発に大きく投資してる企業って大体年間3,000億円とか4,000億円って規模の予算で
一方で文科省の科研費ってのは、直近でも年間2,000億円台じゃないですか。

※参考リンク
科学研究費助成事業-科研費-をめぐる最近の状況等について(PDF)
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/detail/__icsFiles/afieldfile/2014/09/12/1351769_01_1.pdf

そうですね。

-- 日本に限らず、「国からつく予算」よりも「1民間企業の研究予算」のほうが大きいという事実を
アカデミアの人というか以前の児玉さんも含め、科研費によって研究できている・科研費を取るために動いている人たちはどう受け止めてるもんなんですか?

なるほど。僕は自分の体験含め日本の研究者の感覚しかわからないですけど、まず大学や行政法人の研究者なんかは企業の研究と科研費などでやる研究を全く別のものだと捉えていると思いますよ。

企業の研究というものは営利活動に繋がるもので、科研費で行う研究はもっと公共的なもの・そしてそれがより「高尚」なものだと思っています。
ただ、当時の僕自身を含め、企業からの研究費を重視する研究者はいましたけど。

それでもアカデミアの研究者のゴールは、産業に応用するというよりは、論文を書いて学会に貢献することなんです。
このあたり、企業と研究者のゴールがずれてしまうことなどもよくあります。

企業に所属する研究者は、今後論文や特許数なども業績ベンチマークになりますからそういう活動もがんばるんですが、やはり事業貢献するという前提はありますね。

-- ほうほう、いまの話で素朴な疑問なんですが、「科研費などの研究は、公共的であり、そして高尚なものだ」という思いって
のちのち民間企業に勤めたりする中で、やはり正しい定義だなーって思います?それともなんか言い方変になっちゃうけど大学を通じて植え付けられてしまう「変な意識」だったなーとか思います?

僕が思っていたのは、理学部とかの基礎研究は、「高尚な研究」「ためにする研究」でいいと思うんですよね。

-- なるほど

ただ、例えばユーザーインターフェースだとか、工学系の応用だとか、そういうのは基礎研究じゃなくて応用研究ですよね。
実用的なものに繋がらなければいけないもの。

応用研究で、論文書くためのためにする研究の結果として、実用性の無いものや役に立たないシステムが量産されてる、ってのは否定出来ないと思うんです。
本当に実用性を追求する、という目標からの逃げというか。

-- んー。それは科研費みたいな予算が、基礎研究的なものに投じられるのは営利目的の企業には出来ない領域だから大事、
だけど実用性・応用研究的なものに科研費が投じられるのはどうなのか?みたいなことも含んでます?

いやいや、科研費が投じられるのが正しいのかどうかってのはまた全然別の問題だと思ってます。
応用研究でも実用性や営利にとらわれない、自由な研究があってしかるべき。と思いますし
一企業に根ざさない、公共のものにも実用的であることは求められるじゃないですか

-- たしかに

ただ、その結果として結局は「市場の中で揉まれないと、市場で勝てるものはできないな」という当たり前の結論には至ってます。
市場で勝つっていうのは、要は世の中の人が「実用的だ」「欲しい」って選ばれること。ここに至らないとやっぱり良い結果が出たとは言い難いのかなって。
それはいま自分がどういう仕事をするか?の背景に大きく影響与えてます。

-- なるほど。ちなみにさっき企業の研究は営利活動って話があって、それは当然なんですけど
一方で、世界的な大企業、アップルとかグーグルとかGEとか、、、、ってもちろん根底には営利目的ってのがあるけど、
もはや目線が公共的というか、自分たちで実現できるものの規模感がちょっとした国家レベルにあるじゃないですか

そうですね、そうです。

-- そうなるとね、素人考えですけど必ず国から予算が下りるという仕組みのアカデミアではなくて、
もう少し民間主導アカデミア、みたいなものがガツンと大きな規模であってもいいのかな、とか考えたのです。
もう基礎研究もがんがんやるよっていう。

ほう

-- 超アホみたいなたとえ話しますけど、グーグルが本気で月に人を住まわす世界をビジョンとして掲げました。月にどうやったら人が住めるかについては基礎研究だろうがなんだろうがグーグルが研究費と施設まかないます!とか言っても「すごいな」と思うけど別におかしくはないよねーと。

あー、その話に関係しそうなんですけど、今わけあってITの歴史について結構深く調査をしてるんです。

でね、改めてIT技術の開発の歴史というものを紐解くと、技術開発を担ったのはSRI(Stanford Research Institute)とか、PARC(Palo Alto Research Center Incorporated)とか民間研究機関なんです。

ただし、お金の出所はARPA(※高等研究計画局、DARPAの前身)。
この時点じゃ基礎研究フェーズなわけですよ。

そして後年実用化した段階ではやっぱりAppleとかGoogleとか、純粋な営利企業がそれを担っている。

アメリカの場合には、軍事予算が、わりとフリーハンドでチャレンジングなテーマに使える大きな資金を提供する、それの受け皿になるのが、SRIやPARCやベル研みたいな民間研究機関。
インターネットとかUNIXとかGUIとかオブジェクト指向とか、今日も世界中で使われる本当の応用技術が生まれるのはこういうところだなと。

で、そこで生まれた知的財産を事業化すると、はいAppleやGoogleのような巨大ビジネスが完成です。と。
こういう流れ。

-- はい、すごいわかります。

僕がいまやってる事業も、規模は小さいけどSRI/PARCみたいな感じとして位置づけてて
応用研究に予算をつけて、受託する、実用化の細かいところは事業会社に委ねる。

もちろん本当のSRI/PARCをやるためにはもっと資本がいるんですけど
その部分がないなーと思ってやってます。その領域のちゃんとした担い手が国内に必要だ、って。

-- そういうことって、他に考えてる人たちっていると思います?

国内で一番近いのは、理研じゃないですかね。
藤井先生がVRの実用化に取り組んだりとか

-- さっきね、アメリカだとフリーハンドで長期的な大型予算がつける土壌がある話してましたけど。日本ってそうじゃないじゃないですか。
そういう土壌が出来てない理由ってどう思ってます?軍事予算の話もあるだろうし、他に国民性とか文化的な背景とか、過去の成功モデルとか、いろいろあるでしょうけど。

まず当然ながら、軍事予算が大っぴらにつけにくいってのがありますよね。
軍事予算は、大きな予算をつける言い訳が立ちやすいですから。

-- 国としての存亡を賭けた本気の投資理由(軍事)ってことか

ですです、次に財政面の危機ですかね。
3つ目に、これはITに関連するところですけど80年代の第五世代コンピュータープロジェクトが大コケして大規模な国家プロジェクトへの批判が高まったとか。
まあこの辺りが背景なんじゃないかな。

-- それって、なんか日本がダメって話だけじゃなくてアメリカが凄すぎるよ、みたいな話に感じる。

それはそうです、あれだけの戦略的投資をITや人工知能にやってるのはアメリカ以外ではイスラエルくらいじゃないですか?
イスラエルも、やっぱり軍事的な背景が色濃いかな

-- イスラエル凄いですよね。なるほどなー。超参考になりました。

歴史を色々振り返って改めてこういう構造全体を理解しないとな。と自分でも思いました。

-- なるほどー。あのー。このメッセのやりとり、凄い面白かったのでブログに書いてもいいすか

全然いいですよ、いつも公言してることですし。
まーこういう話ならご飯とか食べながらいつでも。
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以上です。

興味深い話だったなーと思いつつ
別に児玉さんが全ての事象を把握した上で世界一正しい話をしているとかも思わない。

このエントリー読んだ人も「超参考になるな、なるほどそうなのか」って思う人も
「全然判ってない、要因はそこじゃないんだよ」って思う人も
「いまさら何の話をしてるんだ、そんなことは昨日今日始まったことじゃあないんだよ」って思う人もいると思う

見解ってのものは世界中でバラバラだから世の中面白いんだろうしどうとってもらってもいいと思ってる。

ただ一つだけ言えるかなって思うのは、これは「今日を作り上げた話(の1つの見解)」であって
未来もそうある、絶対にそうなる、みたいな話は1つも無いんだ。ということ。

今日ないものを明日実現しようと思ったときに、
過去に縛られないことと、過去を自分なりに知ろうとするプロセスは両方大事で

そもそも国なのか民間なのかとかの二元論や「べき論」よりも、
ビジネスや投資やアートの世界とどう接続性を生じさせるべきかみたいな話のほうが大事な気がしてる。


自分に関係ない話だな、って思った人はそれで全然いいと思うけど、
一方で、自分の身の回りのあらゆるものにこうした背景があるんだなって興味を持ち
昨日までは遠い話だったけど、自分も自分なりの関わり方ができるのかな?って思う人が一人でもいたら

その人に「僕はこの間こんな話を聞いたよ」って伝えたいと思ってこのエントリーを書きました。


★以下6月28日追記

上記の文章を書いたあとに、大学で産学連携に取り組んでいる人だとか、企業で新規事業・投資をやってる人とかと、似たような話をした結果、2015年6月時点での僕の結論が出た気がするので追記しとく。

キーワードは「儲けちゃおうよ」です。

なんかさ、素晴らしい研究を世に送りだすことは「大事だ」とか
日本がもっと元気になることは「大事だ」とか
イノベーションを支援していろんな課題を解決することは「大事だ」とか

世の中色々大事だって言われてることはあるんだけどさ

一番いいのは、「大事だってことに取り組んでたら、ほうらこんなに儲かっちゃいましたー」だと思うのよ。

再生医療は大事だ!っていうんじゃなくて、再生医療は儲かるよ!

研究者の支援は大事だ!って声を大にして言うんじゃなくて「研究者の支援は儲かるよ!」
とか。

「イノベーションの支援って超儲かるよ!課題を解決するって超儲かるよ!」

これ。

儲かることなら、投資が集まるじゃん、人が集まるじゃん、資本主義は色々瓦解しそうな匂いもするけど(この話長くなりそうなんでまた別で)、でも
「儲かることの証明」って凄く大事だと思うのよ。


「儲かるだけ」じゃダメだけど。いや人それぞれだから別にいいけど俺は「儲かるだけ」の話がぜんぜん興味沸かないから。


スタートアップの投資家向けピッチとかも結局「儲かる&意義がある」だし
特に俺みたいにプログラム書いたり得意な研究領域持ってたりするタイプじゃない、何かの強みを持ってるわけじゃないけど、プロジェクトを進めたり外に広げる人は

「超儲かっちゃう。もういやんなっちゃう」って言う証明をするのが大事なのかなと思ってます。

よし下半期何やるか決まったなこれ。