2016/03/01

無くなる仕事と、新たに生まれる仕事


IT業界に来る前に、3年弱ほど流通業界で働いていました。
5年ほどふらふらとフリーターをしていた中、勤めたバイト先で正社員にならないか?と言われ、
秋葉原の家電量販店で、店員をしていました。


ちょうど、ECという市場が拡大期にあたる時期で、
僕が勤めてた会社は、国内でもいち早くネット通販で売上を拡大していた企業のうちの一つでした。

当時は、Eコマースという言葉よりも「クリック&モルタル」という謎の用語があったりして、
ネット通販の勢いは凄まじかったものの、実店舗の売上が全社的には売上の重要な部分を担っていたし、無店舗型・ネットのみの店舗なんてのは、まだ限定的なもの。という雰囲気だったのを記憶してます。


週末セールや繁忙期のセールの準備を整え、
忙しい時期は17日連続出勤という、今考えると結構な激務をこなしていました。


店舗に立ち、接客し、数万~数十万円の買い物を決断させる。
店員として優秀か否か、の判断は「販売数・売上数」であり、それ以外には

秋葉原という街に買い物に来る客への対応力
・どれだけ深い商品知識を持ってる人とも対等に渡り合える知識
・初心者の人にも、専門用語を使わずわかりやすく説明し、背中を後押しする力
のどちらか1つ、もしくは両方を持っているか?が大事だった。

僕は完全に後者で勝負するタイプで、専門知識を求めているお客さんの時は
正直に説明し、速やかに接客を変わってもらっていた。

仕事を通じ、言葉の裏に隠された本音を察知する嗅覚、言葉を交わす前の、身なりや持ち物や目線の動き方から、収入や可処分所得に対する考え方を洞察する能力を養った。

端的に言えば、「売ってなんぼ」の世界


当時、2人の先輩社員がいた。
Aさんはスポーツマンタイプで、頭はそんなに良くないけどとにかく社交性があって、商品知識は素人。でも体育会系のノリで頑張るので、フロアマネージャーまで出世してた。

Bさんは、外見も中身もオタク。勤続年数が店の中で一番長く、商品知識はまさに生き字引のよう、社交的な性格では無い上に出世もあまり興味が無さそう、というか人間関係が少し不器用で、現場で僕と同じ一般職のままだった。


3年働いたなかで、2つ特に覚えてることがある。

Aさんは、フロアマネージャーになったけど、商品知識も無く売上拡大の施策もどこか的外れで、よく怒られていた。
いろいろと担当フロアを回された挙句、最終的にスタッフ数を増やし始めた「Eコマース部署」へと異動になった。


Eコマース部署は本社勤務なので、Aさんと会うこともなくなったが、
半年ほど経ったある日偶然駅前で会った。
いつのまにかEコマース部門のリーダーになっていた。

「ちょっとお得なキャンペーンを用意したら、目の前で何十人、何100人がどんどん買っていくんだよ」
「キャンペーンの準備は大変だけど、接客の手間も無いしレジ打ち間違えは無いし、商品は勝手に発送されるし、俺Eコマース向いてるわー」

この話を翌日、店長に「昨日Aさんに会いましたよー」と話すと、店長はちょっと不機嫌になった。
「売ってなんぼ」の社内で、Aさんのチームは既にうちの店舗全体の売上を超えていた。



Bさんは、毎日淡々と病気もせず無遅刻無欠勤で出社し、接客をしていた。
週末セールは、大量の商品が入荷するので、販売員総出で倉庫に搬入する。

長年の仕事の影響からか、Bさんは腰痛持ちだった。
僕が重量20kgを超えるコンテナを倉庫に搬入すると、Bさんが倉庫内の棚にデスクトップパソコンを運んでいた。

棚に運び終わったあと、Bさんは苦しそうな表情で腰を押さえていた。
「大丈夫ですか?」と声をかけようとした瞬間、Bさんは振り向いて「おう、それそこに置いといていいぞ」と言った。

Bさんの年齢は、たしか僕の10歳年上だった。
毎日あまり何も考えず脳天気に働いていた僕は、突然Bさんと自分の10年後の姿を重ねた。

「俺は、10年後も重い商品を倉庫の棚に陳列するのかな?」
「それとも、店長職やエリアマネージャーとかになって、そういうことはしなくなるのかな」


僕はAさんと駅前で話し、Bさんが倉庫で辛そうにしてる姿を目撃した約3ヶ月後、
知人の紹介によって、とあるモバイルサービスを提供するITベンチャーに入社した。

モバイル業界はその後飛躍的に市場を拡大し、
そのITベンチャーは、僕が退職する時、入社時に比べて社員数・売上規模ともに12倍になっていた。


僕はEコマースが今後伸びることや
実店舗の販売ビジネスがネット通販に押されて苦しくなること、
モバイルサービスが飛躍的に、世界的に伸びること、

どれ一つとして、予測もしてなかったし、そういう情報を発信してる当時のメディアも見ていなかった。
ITベンチャーの面接をするときも「知人が楽しそうに仕事してるから」が理由で、事業内容は1ミリもわからなかった。


というか、ごくごく一部の、一握りの「これからはITだ!」と気付き、いち早く勝負を賭けた人達以外、当時そんなことに気がついてる人はあまりいなかった気もする。


新しい潮流を、半信半疑に見ていた人、
新しい手法で事業を拡大し自分達の立場を脅かす存在を、苦々しく見ていた人、
僕みたいに、脳天気に暮らしてて、そんな変化にも気が付かなかった人。
「あんなものは一過性のものだ」と、存在を認識しつつニヤニヤと見ていた人。


ちなみにその家電量販店は、僕が辞めた数年後にとある大企業に買収された。

AさんもBさんも、いま何をしているかは知らない。
2人共辞めた、と聞いたのは覚えてる。


人工知能によって奪われる仕事、たぶんある。

IoTによって何かが救われる人、たぶんいる。

VR技術によって生まれる仕事、たぶんある。

どれも全部、たぶんある。


そして、どこを切り取ってもスナップショットの一つでしかなく
動画の中の一瞬を切り取った一コマは、素敵な一瞬や残酷な一瞬を捉えてるかもしれないけど、
次の瞬間はもう別のコマになっているので、点には本質的な意味はなく線で繋がれることで意味をなす。


新しい技術や市場によって、自分に向いた仕事に出会うAさんも
新しい技術や市場によって、体力的にきつい仕事から開放されるBさんも
どっちもいるだろうし、

全体のトレンドが、個人の運命を決定づけることなんてこれからも無いんじゃないかな。
もしそういう人がいたら、その人は外的要因のみによって運命を決められてしまう人なんだろうな。
ということを

雑誌や中吊り広告で「10年後に無くなる仕事!!!」みたいな見出しを眺めながら思った。

0 件のコメント:

コメントを投稿